クラウン(道化師)流・コミュニケーションの極意
盛り上げのプロ、クラウンに学ぶコミュニケーション術
前回のコラム、病院に笑いを届けるホスピタル・クラウンでは、 病院へ笑いを届ける道化師、ホスピタル・クラウンの紹介をしました。 クラウン(道化師)は病院であれ、被災地であれ、会社であれ、どんな場所でもその場の雰囲気を明るくする、コミュニケーションのプロです。 今回は、そのプロ集団を率いる、日本ホスピタル・クラウン協会代表の大棟耕介さんが講演でお話しされた内容からクラウン流コミュニケーションの極意を紹介します。
引きのコミュニケーション
クラウンの芸はお手玉のように複数の物を連続的に投げ上げるジャグリングや不安定な足場に乗ったり、 何台もの机やいすを頭で持ち上げるバランス芸がなど派手な大道芸を思い浮かべるかたも多いでしょう。 しかし、クラウンは会場の出迎えなどの実際の現場ではこれらの高度な芸を相手に見せません。 こうした芸は披露すれば賞賛の拍手がもらえる一方で、逆に相手との距離を作ってしまうことがあるからです。 クラウンの役割はコミュニケーションの相手に気持ち良くなってもらうことです。 クラウンは「これからすごい芸を見せますよ!」と引っ張った挙句、盛大に失敗するということわざとします。 そうすることで、相手の失笑を引き出すのです。 相手の下に潜り込んで相手を持ち上げてあげるこのコミュニケーションを「引きのコミュニケーション」といいます。
引きのコミュニケーションを会話に適用すると、失敗談がそれにあたるでしょう。 人間は他人より優位に立つことで気持ち良くなる性質があります。 自慢話を話すほうは気持ちよいですが、聞き手はうんざりします。 逆に、失敗談はあまり話したくないものですが、相手に気持ちよく聞いてもらえることが多いのです。 バーの聞き上手のマスターはそれをよく心得ていて、お客さんに気持ち良くなってもらうために、 自分の失敗談を豊富にストックしていて、なおかつ、相手の自慢話を引き出そうとします。 なお、一人前のクラウンになるために、ホストとしてこのような会話の修業をしていたかたもいらっしゃいます。
会話の天秤を意識しよう
間接的コミュニケーション
ホスピタル・クラウンは病気の子どもを笑わせることが目的で病院に訪問します。 どうすれば初対面の病気の子どもに笑ってもらえるでしょうか。 普通であれば子どもいる病室に行ってパフォーマンスを披露するということを考えます。 しかし、それではダメです。初めて会う人に子どもは警戒し、笑わなくなるのです。 笑いの大敵は不安感です。まず自分は危険ではない、楽しい人だということを相手に分かってもらう時間が必要なのです。 そこで、クラウンはまず病室の外で呼びかけます。 そして失敗パフォーマンスや手品などの子どもが好きなパフォーマンスをして子どもから近づいてきてくれるようにします。
それでも子どもの反応が薄い場合、お手上げでしょうか。 クラウンはそんなとき、子どもの親や子どもと親しい看護師や医師にパフォーマンスを披露し、笑顔にします。 子どもは親しい大人の雰囲気をよく観察しているものです。 親しい大人が笑っていれば、間接的にこのクラウンは信頼してよいという気持ちになり、子どもが笑いやすくなるのです。
さらにクラウンは、その場にいる人全員にパフォーマンスに参加してもらいます。 笑うためには仲間外れを作らないことも大事なのです。 人間は気にしていないようでもその場の雰囲気に敏感です。 その場にいる一人でも不安そうな顔をしていたら、その場にいる人全員が心底楽しむことができなくなります。 クラウンはそうした人を作らないよう、笑いを部屋中の人にどんどんうつしていってその場の空気を楽しいものに変えていき、最終的に子どもを笑顔に導くのです。
仲間外れは作らないようにしよう
相手より上のテンション
相手より少し高いテンションであることも盛り上げるためのコミュニケーションの要点です。 聞き上手のキャバクラのお姉さんのテンションは高いです。 どんなにつまらない話しでも、「えー!すごーい!」と反応してくれるので、話し手はいい気持ちになります。 すると話し手もテンションが上がってきてどんどん話が盛り上がっていくのです。 遊園地の案内係は、来園者のテンションより高いです。 子どもが明日遊園地に行くという場合を想定してみましょう。 楽しみで楽しみで前日はなかなか眠れません。 普段寝坊する子でも朝一番に起きてきて「早く遊園地に行こう!」とせがみます。 そんなハイテンションで遊園地に到着して、その日最初に会うスタッフがデパートのエレベーターガールのように「ようこそおいでくださいました」では子どものテンションはだだ下がりです。 たいてい「よく来たね!楽しんできてね!」と子どもより高いテンションでお出迎えしてくれます。 お土産を買うカウンターでも会計後「ありがとうございました」ではなく、「いってらっしゃい!」とテンション高く一声かけてくれたりします。 相手のテンションより少し上のテンションで応対してくれるため、相手を気持ちよくし、相手のテンションを上げてくれるのです。
相手のテンションより上を意識しよう
たくさんの引出しと訓練
クラウンが相手をするのは初対面の人ばかりです。ただ単にいつもおどけているだけではありません。 楽しそうな人にはこれを、いまいち気乗りしなさそうな人にはこれを、などといった相手にあわせてパフォーマンスを披露していきます。 そのためにはパフォーマンスの引出しをたくさん持っていることが大事です。 たくさんの技を持っていればそれだけ相手にあったものを提供できる蓋然性が上がるからです。
それでは、相手にあったパフォーマンスはどのように選べばよいでしょうか。 これはひたすら経験を積んでパターンを覚えていくしかありません。 大棟さんがある看護学校で講演したとき、「相手の気持ちを推察するにはどうすればいいでしょうか?」と訊かれたそうです。 質問した看護学生に対して大棟さんは、「自分の分野の技術を徹底的に鍛えることが大事」と答えたそうです。 充分に技術が身ついていないと、相手の気持ちを推察する心の余裕は生じないからです。 実際、後ろ手でバルーンアートを素早く作れるほど、クラウンはパフォーマンスの技術に習熟しています。 それくらい技術を徹底的に身に着けることで、相手を観察する余裕が生まれ、相手の気持ちを推察することができるのです。
訓練が相手の気持ちを思いやる余裕を生み出す
まとめ
いかがだったでしょうか。
当たり前だと思われる方でも、実践できていないことばかりではなかったでしょうか。
実際の会話のシーンで気軽に試せることが多いので是非クラウン流コミュニケーションを頭の隅において実践してみてはいかがでしょうか。
詳しくは以下の書籍をご参考にしてください。
大棟耕介,2008,『道化師流サービスの力―空気を読み笑顔をつくるおもてなしテクニック』こう書房.
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