アレルギーの専門家が発見した笑いの医学的効果

今回は木村洋二編『笑いを科学する――ユーモアサイエンスへの招待』(新曜社)の中から木俣肇クリニック院長の木俣肇先生による「アトピー性皮膚炎における笑いの医学的効果」の概要を紹介します。 木俣先生は医師のかたわら特にアレルギーの研究論文を多数執筆されています。2015年には「情熱的なキスの効用」でイグ・ノーベル賞を受賞されました。 以前のコラムで取り上げた「つらいアトピーも笑いで治る?」の内容と一部重なりますが、今回はさらに詳細な笑いの効果をお伝えしたいと思います。

笑うとアレルギー反応が弱まる

アレルギー反応はプリックテストという検査で計測できます。プリックテストとは、皮膚にアレルギーを引き起こすアレルゲン液を1滴落として特殊な針で皮膚をひっかき、15分後に皮膚の膨れの直径を測定する方法のことです。


プリックテスト

画像:むさしのアレルギー呼吸器クリニック

木俣先生が、アトピー患者にチャップリンの『モダン・タイムス』(87分)を鑑賞してもらったところ、アレルギー反応が弱まることがわかりました。一方で天気予報のビデオを同じ時間みてもらったところ、アレルギー反応は弱まることはありませんでした(Kimata 2001)。同様に、Mr.ビーンの『ザ・ベスト・ビッツ・オブ・ビーン』(73分)を見た場合も同様の成果が得られました。笑いでアレルギー反応が弱まるということがわかったのです。この場合ではさらに、アレルギー性鼻炎の人でもそのアレルギー反応が弱まることがわかりました(木俣 2001)。


映画『モダン・タイムス』のポスター

アレルギーの大敵はストレス

ストレスがアトピーの症状を悪化させることが知られています。アトピー患者が、携帯電話で2時間メールのやり取りをすると、アレルギー反応が増えます。アトピー患者にとって、メールのやり取りはストレスになっていると考えられます。ただし、前もって『モダン・タイムス』を観て笑っておくだけで、このアレルギー反応が弱まることが木俣先生の実験でわかりました(Kimata 2004a)。木俣先生は「笑いがストレスによるアレルギー反応の増強を予防する」と結論しています。


アレルギー反応、ストレスおよび笑いの関係

まだまだある笑いの効果

以上で紹介したほかに、木俣先生は笑いとアレルギー反応に関する実験を多数行われています。アトピー患者はもちろん、健常人にも笑いがさまざまな効果をもたらしていることがわかってきました。

  • 授乳中に母親が笑えば赤ちゃんのアレルギー反応も弱まる
    授乳中、母親が笑うことで赤ちゃんのダニに対するアレルギー反応が有意に弱まりました(Kimata 2004b)。スキンシップが濃厚な授乳時には、赤ちゃんは母親の影響を強く受けているのです。

  • 笑うことで目の花粉症にも効果がある
    笑うことによって、アレルギー性結膜炎(目の花粉症)を引き起こすタンパク「IgE」の量が低下することがわかりました(Kimata 2004c)。

  • 母乳のレプチンが増加(健常人でも)
    笑うことで、母乳中に含まれる食欲を抑えるホルモン「レプチン」が有意に増加することがわかりました(Kimata 2004d)。効果はアトピー患者と健常人の両方で確認されました。

  • 汗の中にある細菌の抵抗力を増強(健常人でも)
    笑うことで、汗に含まれる抗細菌活性物質「デルムシディン」がアトピー患者でも健常人でも有意に増加することがわかりました(Kimata 2007a)。

  • 睡眠と関係するメラトニンを増加(健常人でも)
    笑うと、睡眠に関係するホルモン「メラトニン」の分泌量が唾液中、母乳中ともに有意に増加することがわかりました(Kimata 2007b, Kimata 2007c)。これもアトピー患者でも健常人でも効果が確認されています。

アトピー患者だけでなく、健常人でも笑うことでさまざまな健康増進効果を得ることができるのです。 赤ちゃんを育てる母親の笑いが、母乳等を通じて赤ちゃんにも作用することも興味深い発見です。 木俣先生は「笑いは、太古から人間が持っている万能の治癒力」とおっしゃっています。 さまざまな病気の分野で「笑い」が治療法として活用される日もそう遠くはないのでしょうか。

今回の記事の詳細は木村洋二編『笑いを科学する――ユーモアサイエンスへの招待』(新曜社)や下記論文をご参照ください。


文献リスト

  • Kimata, H., 2001, Effect of humor on allergen-induced wheal reactions, Journal of the American Medical Association, 285: 738.
  • 木俣肇 2001「アトピー性皮膚炎における笑いの効果」『ストレスと臨床』 10: 33-37.
  • Kimata, H., 2004a, Laughter counteracts enhancement of plasma neurotrophin levels and allergic skin wheal responses by mobile phone-mediated stress, Behavioral Medicine, 29: a149-152.
  • Kimata, H., 2004b, Reduction of allergic responses in atopic infants by mother's laughter, European Journal of Clinical Investigation, 34: 645-646.
  • Kimata, H., 2004c, Differential effects of laughter on allergen-specific immunoglobulin and neurotrophin levels in tears, Perceptual and Motor Skills, 98: 901-908.
  • Kimata, H., 2004d, Elevation of breast milk leptin levels by laughter, Hormone and Metabolic Reserch, 36: 254-256.
  • Kimata, H., 2007a, Increase in dermcidin-derived peptides in sweat of patients with atopic eczema by a humorous video, Journal of Psychosomatic Reserch, 62: 57-59.
  • Kimata, H., 2007b, Elevation of salivary melatonin levels by viewing a humorous film in patients with atopic eczema, Hormone and Metabolic Reserch, 39: 310-311.
  • Kimata, H., 2007c, Laughter elevates the levels of breast milk melatonin, Journal of psychosomatic Reserch, 62: 699-702.

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