なぜ私たちは笑うのか(ソフィー・スコット)

今回は、アメリカで講演会を開催する団体、TEDの講演から、神経科学者でありながらスタンダップコメディアンであるソフィー・スコット氏の「なぜ私たちは笑うのか」の内容をまとめます。 この講演はNHKのスーパープレゼンテーションでも取り上げられているのでご存知の方も多いのではないでしょうか。 科学的視点から笑いの謎にせまります。

笑い声は原始的

笑い声には、さまざまな個性があります。 次の動画では、笑いが笑いを呼ぶ「笑いの連鎖」動画で、さまざまな笑い声が登場します。 笑い声は話し声よりも動物の鳴き声にずっと近くて原始的です。

人は肋間筋を使って胸郭を収縮させながら、肺に空気を出し入れして呼吸をします。 その動きをみると、笑いの特徴がわかります(下図)。


胸郭の動きの時系列変化
上から呼吸、会話、笑い

(TEDから転載)


上から、呼吸、会話、笑いです。
次のようにまとめることができるでしょう。

  • 呼吸:規則的(吸ったり吐いたり)
  • 会話:不規則(胸郭の動きを微妙に調節をしながら息を絞り出す)
  • 笑い:規則的(ハッハッハッハと断続的に息を絞り出す)
人は微妙な呼気の制御ができるからこそ、唯一話すことができるのです。

笑うのは人だけではない

ニーチェの名言にあるように、よく「人は笑う唯一の動物だ」と言います。しかし近年では、哺乳類であれば笑うことがわかってきました。特に霊長類の研究報告は多くされています。ネズミも笑うという報告もあります。これらの動物はくすぐったい時や他の個体との遊びの中で笑います。

私たちは他人と笑うことが多い

心理学者ロバート・プロバインによると、人は独りでいるより他人といるほうが30倍も多く笑うそうです。大部分の笑いは会話など他者との交流の中で生じます。対人場面において人は、ジョークがおかしいから笑うのではなく、「会話を理解していること」を相手に示すために笑うのです。笑うことで、相手に賛同していること、グループの一員であること、さらには相手への好意さえ示すのです。

笑いには2種類ある

おかしいと思った時の自然発生的な笑い(以下、「本当の笑い」)と、対人関係における意図的な笑い(以下、「つくり笑い」)の2種類は神経生物学的な基盤は異なっている可能性があります。人は「本当の笑い」と「つくり笑い」の聞き分けが得意です。少なくとも我々にとって両者は別物としてとらえているのです。興味深いことに、チンパンジーでもくすぐったいときの不随意的な笑いと他の個体と遊んでいるときの社会的な笑いは異なります。
「本当の笑い」と「つくり笑い」は音声的に大きく異なります。「本当の笑い」は長く、高い音になります。「つくり笑い」とくらべて「本当の笑い」は、はるかに高い圧力で息を絞り出すためです。対して「つくり笑い」には「ハハハハ」といったような鼻濁音の特徴があります。また、「本当の笑い」と「つくり笑い」を聞いたときでは脳の違った部位が反応しています(下図)。


笑い声を聞いたときの脳の反応
青:「本当の笑い」を聞いたときに強く反応
ピンク:「つくり笑い」を聞いたときに強く反応

(TEDから転載)


「本当の笑い」を聞いたときに反応する青の部分は聴覚野です。人は「本当の笑い」を聞いたとき、得意なその音自体に重きをおいて処理しているのです。「つくり笑い」を聞いたときに反応するピンクの部分は、他者が何を考えているのかを推測するときにはたらく領域に関連します。「つくり笑い」を聞くとき、人は「なぜ笑っているのか」を探ろうとしているのです。

笑いを見分ける能力は年を重ねて向上する

「本当の笑い」と「つくり笑い」とを見分ける能力は年齢とともに上昇する傾向があります。


つくり笑いを見分ける能力の推移
横軸:年齢

(TEDから転載)


5~10歳の子供に低かった見分ける能力は、30代後半から40代前半にピークを迎えます。成人早期の経験をもって笑いの種類を見極める能力は発達していくのです。

若い人には笑いが伝染しやすい

笑いには強い伝染性があります。若い人にその傾向が強く、他人の笑い声を聞いたときに笑いやすいです。年を重ねるにつれて、笑いの伝染性は弱くなります。


笑いの伝染しやすさの推移
横軸:年齢

(TEDから転載)


笑いは心地よさを生み出す

ロバート・レヴィンソンの研究室の実験を紹介しましょう。ストレスを感じる会話を夫婦でしてもらって、ストレスの変化をポリグラフで確認しました。すると、ストレスに対して笑いなどのポジティブな感情で対処する夫婦はストレスがすぐに軽減されることや、身体的快適さ増加することがわかりました。さらには、そういう夫婦は夫婦関係の満足度が高く、夫婦生活を長く続けていたのです。笑いは感情をどう「一緒に」調整しているかを示しており、親密な関係の有益な指標となります。私たちは好意を相手に伝えるためだけに笑うのではなく、笑うことで「一緒に」心地よさを生み出すことができるのです。

このビデオでは男性が水着を着て氷の上に飛び込みますが、予定通りに氷が割れずおしりを打ちます。その状況を見た友人たちが笑いだし、やがて本人も笑いました。笑いによって痛くて恥ずかしい大変な状況が好転したのです。こうした出来事は意識しないだけで身の回りで頻繁に起きています。深刻な事態に直面していても、適当な話題を見つけて一緒に笑えば、切り抜けられることがあります。笑いは哺乳類が他者と絆を形成、維持し、感情をしっかり調整し快適に過ごすために進化させてきたシステムです。

素晴らしいプレゼンですので、元動画もぜひご参照ください。

TED なぜ私たちは笑うのか(ソフィー・スコット)

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