大喜利をする人工知能!?笑いを生み出す仕組みとは(後篇)
前回は、株式会社わたしはの大喜利αと大喜利βに大喜利のお題と答えを返してもらいました。 今回は人工知能のユーモアの生み出し方について考えます。 株式会社わたしはのブログ「笑い」はなぜおきるのか、研究してみた。に紹介された内容をベースにご紹介します。
代表的ユーモア理論
人がどんなときに笑うのかということについて、人文科学的なアプローチが古くからおこなわれてきました。 代表的な例で、トマス・ホッブス(1588-1679)の「突然の得意」が有名です。 彼は『リヴァイアサン』と『人生論』において、他人の不幸や欠陥を発見し自分が優越感を感じた時に人は笑うとしました。 また、アンリ・ベルクソン(1859-1941)は『笑い』の中で「生からの機械的こわばり」を見つけたとき人は笑うとしました。 「生からの機械的こわばり」とは、生きものには特有のしなやかな動きが前提とされますが、その中で生じる不自然なぎくしゃくした動きのことです。 北朝鮮の軍隊の行進などはその例でしょう。 そのほかには、ジークムント・フロイト(1856-1939)は、笑いは無意識の願望の代償的満足を与えるものという考えに端を発する笑いの「心的エネルギーの解放」説を述べました。 ちなみに、これらのユーモア理論は、それぞれ優越理論、不一致理論、解放理論と呼ばれることがあります。 また落語家の桂枝雀氏が笑いとは「緊張と緩和」で説明できると分析したことは有名です。 ユーモア理論にはこれ以外にも様々な種類があり、今回は紹介しきれませんので詳細はまた改めてご紹介します。

アンリ・ベルクソン。ノーベル文学賞を受賞したことでも有名。
近年では人文科学的領域で発案されたユーモア理論を自然科学の領域で検証する例も出てきています。 次の研究では、WEB上のビッグデータからGoogleの自然言語処理プログラムWord2Vec等を用いて文中のユーモアを生み出す因子について解析を行いました。
Humor Recognition and Humor Anchor Extraction Diyi Yang, Alon Lavie, Chris Dyer, Eduard Hovy Language Technologies Institute, School of Computer Science Carnegie Mellon University.
この研究では、次の4つの因子がユーモアを生み出すものとなるか検証されました。
(a)不一致構造(Incongruity Structure)
たびたびユーモアは異議や矛盾などのある種の不一致に基づく。
多くのユーモアにはこの構造が見いだせるのではないでしょうか。
例:A clean desk is a sign of a cluttered desk drawer.
きれいな机は、机の引出しが乱雑なしるし。

関連研究
笑いは2つ以上の一貫性のない、適切でない、あるいは不自然な部分や状況が
複雑な事象や集合として統一的に捉えられるときやある種の相互関係があると気づいたときに生じる。
(Herbert M Lefcourt. 2001. Humor: The psychology of living buoyantly. Springer Science & Business Media.)
笑いの本質は不一致、つまり、ある表象を別の表象から切り離すことである。
(John Allen Paulos. 2008. Mathematics and humor: A study of the logic of humor. University of Chicago Press. )
(b)あいまいさ(Ambiguity Theory)
多義的な意味を持つ言葉はユーモアの源泉。聞き手がある言葉の意味を予期したにもかかわらず、もう一つの意味合いでその言葉が使われるとき、しばしば笑いを誘う。
例:Did you hear about the guy whose whole left side was cut off? He’s all right now.
左半身が切断されたやつはどうなった? 彼は大丈夫さ/彼は右だけさ

関連研究
Chiara Bucaria. 2004. Lexical and syntactic ambiguity as a source of humor: The case of newspaper headlines. Humor, 17(3):279–310.
Tristan A Bekinschtein, Matthew H Davis, Jennifer M Rodd, and Adrian M Owen. 2011. Why clowns taste funny:
the relationship between humor and semantic ambiguity. The Journal of Neuroscience, 31(26):9665–9671.
Tristan Miller and Iryna Gurevych. 2015. Automatic disambiguation of english puns. In Proceedings of the 53rd Annual
Meeting of the Association for Computational Linguistics and the 7th International Joint Conference on Natural Language Processing
(Volume 1: Long Papers), pages 719–729, Beijing, China, July. Association for Computational Linguistics.
(c)人間相互間の効果(Interpersonal Effect)
感情や主観性を前面に出した表現はユーモアと関連している。
毒舌や極端なポジティブ表現がその一例です。

関連研究
Renxian Zhang and Naishi Liu. 2014. Recognizing humor on twitter. In Proceedings of the 23rd
ACM International Conference on Conference on Information and Knowledge Management, pages 889–898. ACM.
Janyce Wiebe and Rada Mihalcea. 2006. Word sense and subjectivity. In Proceedings of the 21st
International Conference on Computational Linguistics and the 44th annual meeting of the Association
for Computational Linguistics, pages 1065–1072. Association for Computational Linguistics.
(d)音韻(Phonetic Style)
韻を踏むことや言葉の繰り返しがユーモアな文章において重要な役割を果たすことがある。
ダジャレなどはこれに該当するでしょう。

関連研究
Rada Mihalcea and Carlo Strapparava. 2005. Making computers laugh: Investigations in automatic humor recognition.
In Proceedings of the Conference on Human Language Technology and Empirical Methods in Natural Language Processing,
pages 531– 538. Association for Computational Linguistics.
実際に文章を解析する際には、(a)は文中の単語対の最大の意味距離と最小の意味距離、 (b)は文が有する意味の組み合わせの総数と、文中の単語の類似度の最大と最小、 (c)はポジティブ/ネガティブな単語の出現回数と、弱/強主観表現の出現回数、 (d)は同じ音ではじまる二つ以上の単語の数と長さ、同じ音節で終わる言葉の数と長さの最大値を計算したそうです。 大喜利のボケを生成するさいに、こうした要素を入れることで面白い答えが生まれやすくなることが期待されます。
これらの4つの要素は、特別に目新しいことではなく、人文科学の領域でユーモアを生み出す修辞法としてたびたび指摘されてきたことです。 また、それぞれの定義同士で重なる部分もあります。 今回は自然科学のアプローチからこれらの要素がユーモアの生成に有効であることを証明したということに価値があるのです。
なおこの研究では、分析から「下ネタ」を除外したということで、ユーモアを生み出す要素が4つだけに限定されるということではありませんのでご注意ください。
下ネタといって個人的に思い出すのは、私の恩師である木村洋二先生が出演された、『トリビアの泉』(フジテレビ)の、
「人が笑うという行為」を学問として研究している人達が作る一番面白いギャグは「青年の主張で性欲の強さを主張する」という回です。
ユーモアの解釈は十人十色ですので、このギャグで笑えるか笑えないかはさておき、笑いを専門とする研究者5名が出した結論で、
上記で紹介したユーモア理論に照らしたとき、なるほどなあと考えさせられます。
もっとも、このギャグは「笑いとはエロス(性の欲望)とタナトス(死の欲望)を源泉として表れる文化の中における揺らぎであるという
哲学的テーゼ(主張)の実践パターンでもある」という主張に基づいたものとされており、
H.スペンサーの『笑いの生理学』をベースにした笑いの統一理論を提唱された木村先生の考えとは若干「不一致」なのかもしれないということを補足しておきます。
人工知能を用いて笑いの生成をする大喜利βは、画像認識まで範疇に入れているとのことで、今後さらに成長してあらゆる状況で面白さを提供してくれるとなると、ものすごく楽しみです。
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アップデート内容はWARAI+Recorder iOS版リリース!をご覧ください。 - 人工知能専門の情報メディアAINOW(アイノウ)に掲載されました。ぜひご覧ください。
「昨日どれくらい笑いましたか?」 iOS版もリリース。AIで笑いを可視化するWARAI+を取材しました。