このシリーズでは、観客の笑い声や拍手を音声解析して「どれくらいウケていたか」を見ています。
今回は、M-1グランプリ2025の決勝戦の最終決戦の解析です。
音声解析の方法
TVerで放送された音声をUKETA(ウケタ)で解析します。
UKETAでは観客の爆笑や拍手の音量を推定し、グラフ化・スコア化することで「どのネタがどれぐらいウケたのか」を見える化することができます。
なお、解析区間はネタ開始~ネタ終了時のBGM直前までです。
ただし、自己紹介時の拍手はカウントしません。

UKETA(ウケタ)とは?
WARAI+(ワライプラス)の笑い解析・採点AI
音声解析の結果
1組目:ドンデコルテ
以下の図がUKETAを用いた解析結果です。

縦軸は笑いや拍手の音量の推定値。横軸は時間(分:秒)。
ブルーが笑いの音量、ピンクが拍手の音量です。
縦軸は笑いと拍手の音量の合計値で、笑いや拍手の音量が大きければ大きいほどグラフは縦に伸びます。
特に大きな笑いや拍手が発生したシーンを紹介します。
ドンデコルテの漫才のテーマは「街の名物おじさん」。
渡辺氏は40歳になり、収入が低いうえに、独身の孤独感があるといいます。
そのために、このままでは「街の名物おじさんになってしまう」と相方の小橋氏にうちあけます。
グラフを見ると、中ごろの2分40秒~3分10秒に3回大きな拍手笑いが起きていますが、一番大きな笑いは3回目の次のシーンでした。
渡辺:「みなさん、誰かのドラレコでお会いしましょう…」
小橋:「映り込もうとするな!」
渡辺氏が全身をLEDで光らせて自転車を漕ぐ「名物おじさん」になる理由を説明したあとに、上記のセリフを発して、大きな笑いが生まれました。
小橋:「急に怒鳴るとお客さんがびっくりするから止めてよ」
渡辺:「お客さんは流石に冗談だと思いましたよねー」
小橋:「そうですか?」
渡辺:「そうした当事者意識のなさが今の社会を…」
小橋:「そのフェイント、やばすぎるから!」
渡辺:「何でも他人事だと思うなよ…
こんな段差、いつでも降りられるからな!」
ラストは渡辺氏が社会への不満をぶちまけて「街の名物おじさん」に今まさになってしまったのではないか、と想像させるシーンです。
ここでこの漫才で一番大きな規模の拍手が生まれました。
漫才全体を見渡して、笑いと拍手の分布を見るとこのラストシーンに向けて尻上がりに拍手笑いが発生していることがわかると思います。
審査員の評価が高くなりやすい展開です。
2組目:エバース

縦軸は笑いや拍手の音量の推定値。横軸は時間(分:秒)。
エバースの漫才のテーマは「腹話術」。
佐々木氏が「腹話術師」を担当するから、町田氏に「人形」を演じてほしいといいます。
(町田氏が言われるがままに人形を演じてみる…)
佐々木:「お前、やったことあるなら先に言えよ!」
町田 :「あるわけねえだろ!」
腹話術の人形を演じるという「あるはずのない」状況ですが、初めてにもかかわらず町田氏の人形の仕草が上手だったことから、大きな拍手笑いがおきました。
(町田氏が人形を演じる…)
町田(人形):「コンニチハ、今日は、ボクのために、集まってくれて、アリガトウ」
町田(人形):「ボクも、みんなと…」
町田 :「俺、キモすぎるわ、お前!」
ラストのシーンで、町田氏の演じる「人形」に自分でツッコミを入れて大きな拍手が起きました。
これは「腹話術の人形を人間が演じる」というテーマへのノリツッコミとなっています。
笑いや拍手の発生状況を俯瞰してみると、全体的に大きく盛り上がる場面が少なく、また、笑いや拍手が終盤にかけての伸びもありませんでいた。
これにより、審査員の評価としては伸び悩む展開となりました。
3組目:たくろう

縦軸は笑いや拍手の音量の推定値。横軸は時間(分:秒)。
たくろうの漫才のテーマは「ビバリーヒルズ」。
ビバリーヒルズに将来住みたいという木村バンド氏。
赤木氏にその時の練習をさせてくれと相談をします。
(強引にビバリーヒルズのシミュレーションを始める木村氏)
木村:「いやあ、ジョージ!こんなところで何をやってるんだ?」
赤木:「英語じゃないと意味ないんちゃう?」
木村:「おかしいじゃないか?」
赤木:「それ、吹替版のやつだから、意味ないそれは」
木村:「なんでこんなところにいる?」
赤木:「現地はおらんで、吹替版の人は」
木村:「たしか君は、マイアミへ出張って言ってなかったっけ?」
赤木:「言ってない、意味ないそれは」
木村:「マイアミへ出張って!言ってなかったっけ!?」
(沈黙)
赤木:「ああ、言ってたかもネー……」
「日本語吹替版」状態で英会話練習をしようとする木村バンド氏。
それを必死に諌めようとする赤木氏ですが、木村氏はまったく聞く耳を持ちません。
その強引さに赤木氏はついに折れてしまい、自らも仕方なく「日本語吹替キャラ」となったこの場面で大きな笑いが発生しました。
(パーティーに飛び入りするのは気が進まないので、事前に主催者に連絡を入れてほしい赤木氏に対して)
木村:「気にしすぎだ!
まるで、ロブスターを食べているときのプリンセスだな!」
(沈黙)
赤木:「ああ、何を言われた??」
観客の気持ちと赤木氏の気持ちが一体になったこのシーンでこの漫才で一番の拍手笑いが起きました。
数秒の沈黙の時間を有効に活かした漫才となっています。
この後はパーティで赤木氏がしどろもどろになりながら自己紹介をしていく流れとなります。
(パーティー会場に到着)
木村(パーティの主催者ナンシー):「ジョージも来てくれたの?久しぶりじゃない!
あなた今までどこで何をしていたの?」
(沈黙)
赤木:「ニューヨークで…テトリスさ」
木村:「紹介するよ、こちら、GoogleでAIをしているジェームズ」
(沈黙)
赤木:「えー、Yahoo!で天気予報を見ているジョージだ」
木村:「こちら、マクドナルドでCEOをしているテッド」
(沈黙)
赤木:「えー、やよい軒でおかわりをしているジョージだ」
木村:「オハイオ州で州知事をしているケイト」
(短い沈黙)
赤木:「えー、大阪府の納税者のジョージだ」
この漫才には、「言いよどみ」や「沈黙」が頻繁にあらわれることがポイントです。
困惑した人物を登場させることで視聴者の心理的ハードルを下げつつ、発言への注目度が高まるため、大きな笑いを生み出すことにつながると考えられます。
また、ボケの中身に注目すると、「似ていて違う」「ズレ下がり」という笑いの発生原理に即した受け答えになっています。
つまり、GoogleとYahoo、マクドナルドとやよい軒、オハイオ州と大阪府といった、類似性をともなう対比構造を用意したうえで、ボケ側をやや身近な存在にすることによって「ズレ下がり」ができるのです。
こうしてみるとこの漫才は、近年多く見受けられるボケ数を増やして多くの笑いを発生させることに特化した漫才とはまた別のコンセプトで作られたものだといえるでしょう。
なお、この漫才は、ファーストラウンドも含めてM-1グランプリ2025決勝戦で一番多くの笑いを生み出した漫才となりました。
審査結果との比較
最後に、審査員の票数と笑いと拍手の音量の平均値、最大値、合計値との比較をしてみましょう。
最大音量とは
最大音量とは、「ネタ中に最も大きかった笑い+拍手の音量」です。
ネタ中に最も盛り上がった箇所の特定とその盛り上がりの大きさを知るために役立ちます。
下図では、水色部分+ピンク部分の最も大きい箇所です(矢印部分)。

合計音量とは
合計音量とは「ネタ中に発生した笑いと拍手の合計音量」です。
ネタを通してどれだけお客さんを盛り上げたかの総量として考えることができます。
前掲の図では、水色部分の面積+ピンク部分の面積に相当します。
平均音量とは
平均音量とは、「ネタ中に発生した笑いと拍手の平均的な音量」です。
ネタ時間を同一だと仮定することで、笑いや拍手の平均的な大きさを比較したい場合に使います。
前掲の図では、(水色部分の面積+ピンク部分の面積)÷ネタ時間で求めます。
集計結果
今回の3組の計測結果をまとめたのが下表です。

9人の審査員のうち8票を獲得して優勝したのはたくろうです。
たくろうの漫才は、笑い・拍手の最大音量、合計音量、平均音量はいずれも1位でした。UKETAによる計測結果からも、たくろうは文句なしの優勝だったことがわかります。
ドンデコルテは審査員から1票を獲得して準優勝でした。最大音量・合計音量・平均音量のいずれも2位だったので順当とも言えます。ラストシーンにむけて加速度的に盛り上がる構成となっていたことや、社会をテーマとした内容でもう少し得票が伸びてもおかしくはなかったと思います。
エバースの得票数は0票でした。笑い・拍手の最大音量・合計音量・平均音量のいずれも3位でした。大きな盛り上がりが少なかった点も含めて、他の2組に勝てる部分はあまり無かったように思います。審査員の評価は順当かもしれません。ファーストラウンドをトップで勝ち上がった優勝最有力候補だっただけに惜しい結果です。来年に期待です。

注意点
以上はあくまでも放送の音声を解析した結果です。音量などの調整をしていない前提での比較となります。実際は音響担当者が随時音量などの調整をしているはずですので、今回の結果は、あくまでも参考程度にしてください。
また、観客が異なるため他の年度の音量スコアとの比較ができない点もご留意ください。
WARAI+ではより正確な現地での出張測定や今回のような音声データの解析サービスも提供しております。詳細はお問い合わせください。