笑って神を祀る「笑い祭り」
日本には現代人の感覚では「変わった」祭りがたくさん存在します。 そのなかでも「笑い祭り」という笑うことを主とした祭りがいくつかあるのはご存知でしょうか。
古事記の天岩戸神話に登場する笑いに象徴されるように、昔の日本人は「笑いには神様を元気付けるパワーがある」と考え、神に向かって笑う儀式をおこなってきました。
その証拠にいまでも太陽の力(=太陽神アマテラスの力)が弱くなる冬期にそうした祭りが多く残っています。
現代的な視点から捉えなおすと、日照時間が長くなるよう祈って必死に神様(ご神体)に向かって笑っていたら、思いがけず笑っている本人が健康になるという「御利益」を受けていたわけです。
笑い祭りは大小合わせると数多く存在しますが、参加者の笑いやすさや交通アクセスなどを規準に、おすすめの笑い祭りを4つ紹介します。
酔笑人神事(えようどしんじ)――暗闇に笑いが響き渡る神秘的な祭り
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熱田神宮のご神体はかの有名な草薙の剣。 686年、神剣が皇居から熱田神宮に還ってきたことを皆で喜んで笑った様子を伝えている神事です。
まず、十数人の神職が古くから見てはならないという神面を装束の袖に隠し持ち、ぞろぞろと境内を移動をしていきます。
目的のスポットに到着すると、神職のうちふたりが中啓という扇で神面をコツコツと叩いて「オッホ、オッホ」と唱えた後、笛が吹かれると全員が大声で笑います。
これを境内の4か所で繰り返す祭りです。
この神事には「オホホ祭り」という別名がついていますが、神職のかたは「オホホ」どころか「ワーハッハッハ」と豪快に笑うので、多くの参加者もつられて笑います。
真っ暗闇で静まり返った境内に突然大声の笑いが響き渡る大変神秘的な神事です。
熱田神宮は名古屋駅から電車で数分の場所にあり、愛知県在住のかたには参加しやすいお祭りです。
笑い祭――奇抜な格好の先導が「笑え、笑え」とはやし立てる

「鈴振り」という白粉を塗った派手な格好をした先導が「笑え、笑え」と周囲に呼びかけ練り歩く祭りです。
丹生神社の祭神である丹生都姫命(にうつひめのみこと)が出雲へ出かける際に寝坊してしまいふさぎ込んでしまったそうで、それを励ますために村人が笑って元気づけたことが始まりだということです。
江戸時代頃から始まったこの祭りは、現在ではいくつかの祭りが合体した形でおこなわれ、獅子舞、太鼓台、幟の差し上げなどさまざまな出し物が朝から夕方まで続いていく非常に長丁場な祭りでもあります。
鈴振りの登場は午前11時ごろで、「永楽じゃ 世は楽じゃ 笑え笑え、ワハハハハ」と周囲の人に笑いを呼びかけつつ時折飴を撒きながら、1時間ほどの間御旅所から神社の境内までを神輿行列とともに練り歩いていきます。
参加者は鈴振りとともに歩いて笑いながら様々な神輿を眺めて境内まで行くのがおすすめです。
境内に到着したら様々な出し物が次から次へと登場しますが、屋台で買った物を食べながらそれを見物したりする人も多く、比較的自由な雰囲気の祭りです。
携帯電話の電波も届きにくいほどの山奥で行われるためアクセスは良くないのですが、地域の人々はこの祭りに情熱を注いでおり、参加者は祭りの熱気に圧倒されると思います。
笑い講(わらいこう)――車座になって講員が豪快に笑う
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約810年前から続けられている神事で、現存する笑い祭りの中で最も古い部類に入ります。毎年持ち回りの当番(当屋)の家へ21戸の講員が集まり、しばらく飲食をしています。
小俣八幡宮の宮司が祝詞を奏上し、太鼓をたたき始めたらいよいよ笑い神事の始まりです。 長老の合図にあわせて、上座と下座に対座する2名が榊を持って同時に「ウワーハッハッハッハ」とできる限りの大声で3回笑います。
笑い声の第一声は今年の豊作を喜んで、第ニ声は来年の豊作を祈って、第三声は今年苦しかったことや悲しかったことを忘れるため、という意味があります。
車座になった講員の中で、榊を順繰りに渡して対面同士が笑っていき、最後に給仕役4名もあわせて全員が笑って締めます。笑い声が小さかったり不真面目に笑っていたりしたら、講の長老から容赦なくやり直しの判定が下され、参加者の笑いを誘います。
広い民家で行われる神事ですが、毎年見物人やマスコミがたくさん集まるため、見やすい場所を確保するのは苦労するかもしれません。
その年の当屋の場所については防府市の観光協会に問い合わせるのがおすすめですが、地元のタクシーの人に聞いても連れて行ってくれます。
注連縄掛神事(しめかけしんじ)――千人規模の参加者が笑いに笑う

記録では江戸時代くらいから存在が確認できる、天照大神の天岩戸隠れ神話にもとづいた神事です。
鳥居にかかる注連縄を新しいものに掛け替えたあと、宮司の先導により神職、氏子、見物人が本殿に向かって「アッハッハー」と3回笑います。
この神事自体は1分とかからずに終わってしまうのであっけなく感じるかもしれませんが、参加者が大いに笑うことができるのはこの神事のあとに行われる大笑いのイベントです。
20分間、1000人以上の人が思い思いに大笑いするので、境内は人々とその笑い声であふれかえります。
初参加でもとても笑いやすい祭りなので、気軽に参加してみてください。
笑いに自信がある人は笑いの豪快さを競う「お笑いコンテスト」を行っていることがあるので、ぜひ参加してみてください。
笑い祭りを通して、笑いのもつ役割について思いを巡らせてみては
今回紹介した祭りは、何か面白いものを見て笑う「お笑い」とは異なり、自ら積極的に笑って神様を元気づけようとするものです。
積極的に笑うことは、消費社会に生きるわれわれがつい忘れがちな心構えです。みなさんも古くから連綿と受け継がれる笑い祭りを通して、笑いのもつ役割について思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。