漫才作家に学ぶ 漫才のテーマ探し方

漫才作家に学ぶ 漫才のテーマ探し方

前回、堺市と関西大学との地域連携事業「笑い学入門」では、漫才作家の藤田曜先生に漫才のつくり方、主に、笑いの作り方の具体的な法則を中心に学びました。今回は、漫才のつくり方の応用編として、漫才のテーマ探しに使える方法を紹介します。

1 さまざまな刺激に触れる

漫才作家、構成作家、お笑い芸人をはじめ、面白い創作物を作る人が必ず行う方法があります。それは、さまざまなことに挑戦し、さまざまな刺激に触れることです。 たとえば一人で部屋にこもって考えるより、外に出て人と話をしたりさまざまな人間を観察することで思わぬ面白い話のヒントが転がってくるものなのです。 人々が何に関心を持ち、何を不満に思っているのか、というポイントが出発点になることが多いです。 藤田曜先生が、マクドナルドで台本を考えていたときに遭遇した孫と老人の会話をもとに生まれたのが次の「ファストフード初体験」です(夢路いとし・喜味こいし)。

               (中略)
こいし その残った物は自分でゴミ箱に持っていって捨てなアカンねん。
いとし 捨てる! このワシをさんんざんバカにしてゴミまで捨てさす気か!
こいし いや、だから……。
いとし こんな楽な仕事ワシだってできるわ。責任者に話にいく。
こいし やめとけ。そんな理由で文句言いに行っても、相手されへんぞ。
いとし 文句言いに行くのと違うわい!
こいし じゃあ、なんて言いに行くねん。
いとし 「ワシも働かしてくれ」て。
こいし もうええわ。

(木村洋二編 『笑いを科学する~ユーモアサイエンスへの招待~』 新曜社.)

この漫才は、「ゴミまで客に捨てさすんか! 楽な店やな」とぼやいていた老人のつぶやきが元になってできています。老人がファストフード店のような、「客が注文をしにカウンターへ出向き、商品を自分で運び、ゴミも自分で捨てる」いわゆるセルフ・サービスの形式に慣れていないことは、若者には気づきにいことでしょう。外の世界にでて見分を増やすことが功を奏した一例です。

2 ドッキング方式

漫才のテーマ探しに使える方法の2つ目は「ドッキング方式」です。まず、下の図のように、「気になるキーワード」と「設定場面」を並べます。「気になるキーワード」はニュース、雑誌、テレビなどをみて誰もが知っているものを中心に選ぶようにします。「設定場面」には思いつく限り多種多彩な場面を並べます。いずれの項目も、数が多ければ多いほどよいです。


ドッキング方式

次に、この表の「気になるキーワード」を「設定場面」にドッキングさせていきます。たとえば、「野球病院」「野球喫茶店」「野球旅館」「野球ホテル」「野球美容室」といったところです。(下図)


ドッキング方式で組み合わせを考える

この中から、自分が流行りそう、面白い!と思うものを漫才のテーマに設定します。
たとえば、「野球旅館」を選んだとしましょう。次のステップは「野球」と「旅館」から連想できるキーワードをなるべくたくさん集めることです。

野球 …… 「東京ドーム」「甲子園」「芝生」「ファースト」「セカンド」「サード」
旅館 …… 「部屋」「畳」「まくら」

「野球好きのための旅館を考えてみたんだけど……」ではじまり、「そんな旅館流行るか!」というツッコミで終了する流れにするとして、その間を集めたキーワードつかったボケを配置すればよいのです。 ボケの例は次の通りです。

ボケ「部屋の名前には、球状の名前がついております」「東京ドーム、甲子園……」
ツコ「甲子園でお願いします」
ボケ「甲子園ですね。屋根がございませんが、それでもよろしいでしょうか?」
ツコ「いいわけあるか!雨降ったらびしょ濡れになるわ!」

ボケ「部屋の床は畳か芝生かを選べます」
ツコ「畳や! 芝生やったら横になったとき草の汁が服について緑色になるやろ!」

ボケ「枕はファーストベース型、セカンドベース型、サードベース型を選べます」
ツコ「全部一緒やないか!」

(同上 p.116を改変)

さらに、上記のリストに職業などの「人物」を加えてドッキングさせることで、詳細な発想を得る方法もあります。


人物を追加

たとえば、「ホラー喫茶店」というテーマを選択したとしましょう。そこは、キョンシーがジャンプしながらコーヒーを運んでくる……という状況を想定することができます。 「こぼしまくりで、びしょびしょになるわ!」というツッコミをすることができます。

3 期待を持たせる状況のパターン

漫才の話の流れをつくるために参考になるのが、次の期待感を持たせる状況のパターンです。漫才はもちろん、映画や小説など様々なストーリーはこうした形式になっていることが多いです。

■対戦方式

A対Bという比較・対戦方式を作ることで、「結果はどうなるんだろう」と思わせることができます。AとBにどんどん「人物」を入れていき、見たい組み合わせを作ります。たとえば、巨人対阪神、トラ対ライオン、縄文人対弥生人などです。『エイリアンVSプレデター』や『貞子 vs 伽椰子』という映画もありましたね。

■異元結合

全く異なるものを強引にくっつける方式です。先に紹介したドッキング方式では主にこの効果を狙っています。たとえば、「やくざ」と「介護士」を選んだ場合、「ボケのすすんだ組長とその世話をすることになった若い女の介護士」ということにしてみます。「実は女の介護士は組長に両親を殺されている……」という話の膨らませ方もできます。

■解決法探索

「施設に閉じ込められる」、「大事な物を紛失した」という状況で解決方法を探索するケースです。三谷幸喜監督がよくやるパターンです。「高校生が薬を飲まされて身体が小さくなってしまった……」という漫画もありますね。

■パロディ

有名な話のパロディも、期待を持たせる方法です。たとえば、「チャーリーズ・エンジェル」のパロディで「ナニワ・エンジェル」、お笑い番組の「レッドカーペット」のパロディでのんきな情報番組「ホットカーペット」なんてどうでしょう。

■あえて言う/数字のマジック

ある特定の数字をあえて言う方式もあります。「二度目の結婚式」はその例です。通常であれば、言う必要がない情報をあえて言うことで注目を集めるのです。結婚式で「それでは、二度目のケーキ入刀です!」と司会者が言うシーンを想定することができます。

以上の方法は漫才だけでなく、新しい商品やサービスの発想方法としても応用できます。
さまざまな発想に活用してみてはいかがでしょうか。

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