笑い学入門7「漫才のつくり方」
笑い学入門第七回目 漫才のつくり方
現在関西大学人間健康学部で開催されている「笑い学入門講座」の内容を要約してご紹介します。この講座は関西大学と堺市との連携事業であり、一般の方向けに無料で開講されています。また、本講座は『笑いを科学する』(新曜社)をテキストとして笑い学を学ぶ講座となっており、基本的に執筆者の先生が登壇されます。今回の講演タイトルは「漫才のつくり方」で講師は漫才作家の藤田曜先生です。藤田先生はあの上方漫才の父、秋田實さんのお孫さんです。夢路いとし・喜味こいし、Wヤング、横山たかし・ひろし、酒井くにお・とおる、海原はるか・かなた、矢野・兵頭、シンクタンク、ギャロップなどそうそうたる面々の漫才の台本を手掛けています。今回は漫才を作る方法を学んだうえ、参加者は実際に漫才を作ってみます。
なお、当記事の内容は、講座の内容を筆者の視点から解釈し短くしたものであり、講師の方の見解と必ずしも同一のものにはなっていないことがあります。ご了承ください。
漫才の基本(1)「会話」
漫才を作るとき、守るべき基本があります。たとえば、漫才の会話で次のBに入るセリフを考えてみてください。
A「いやあ、寒いですね!」
B「????????」
正解はたくさんありますが、なんでも正解というわけではありません。ダメな例は「そうですね」や「ええ、寒いですね」です。正解は「ファンヒーターを買いました」、「こたつを出しました」などです。違いがわかるでしょうか。不正解の例は、会話が先に進んでいません。対して正解の例は、会話が一歩先へ進んでいます。相手のことをそのままオウム返ししてしまうと、テンポが悪く、会話が盛り上がりません。お互いに話を一歩ずつ前に進めることで、軽快な漫才のテンポが生まれます。たとえば、「寒いですね!」「ファンヒーターを出しましたよ」「焼き芋とかおいしい季節ですね」「僕は鍋を食べてあったまりました」「鍋で好きなのは……」という具合です。気づきにくいことですが漫才は、二人で会話を少しずつ先に進めていくものなのです。なお、「相手の話を全て否定していく」という応用パターンもあります。「寒いですね!」「いや、全然寒ない」「焼き芋がおいしい季節ですね」「焼き芋とか食べないし」という具合です。
漫才の基本(2)「つかみ」
漫才では本題へ入る前に、ギャグを入れることがあります。これを「つかみ」といいます。オール阪神巨人の師匠、岡八郎さんの「べっぴんさん、べっぴんさん、一つ飛ばして、べっぴんさん」は有名でしょう。つかみは初対面のお客さんの緊張を解き、笑いやすくする効果があります。このほかに典型的なつかみには、「あ、お母さん、めっちゃ服がおしゃれですね。ピンクの服に靴も決まっていて……あとは顔だけですね!」というイジリのパターンや、「今日は現地に早めに着きまして、街を歩いていたら全然、綺麗な人がいない。なんちゅう街や!と言っていたら舞台に上がって初めてわかりました。街の綺麗な人は全員ここに集まっていたんですね!」というヨイショのパターンもあります。
漫才コンビに特有のつかみもあります。麒麟の「麒麟です」という良い声での自己紹介もつかみですし、ギャロップの「会場のみんな生えすぎちゃう?」「いやお前が抜けすぎやねん」というハゲネタのつかみもあります。あの手この手で場を和ませてネタに入っていくのです。
笑いを生み出す法則8
笑いをゼロから生み出すのは難しいです。法則を知っておくと、瞬発的に笑いを作れるようになってきます。
■誇張の笑い
オーバーな表現をして笑いをとる方法です。典型的なのは、八百屋さんで交わされる「これなんぼ?」「三百万円!」「五千万円からよろしく」という会話です。ほかにも、漫才を一階しかない小さい会場でする場合、「アリーナ席、元気ですか?」「いやアリーナなんかないやろ」「二階席はどうですか?」「二階もないから」というパターンもあります。
■期待外れの笑い
期待をさせておいて、外すという方法もあります。たとえば、少し太っている人が、ダイエットをするために様々な器具に挑戦したり、薬を買って飲んだりしたという状況を想定してみましょう。相方が「三か月経っても、全然痩せてないやんけ」「いや、痩せてるよ」「どこが痩せてんねん」「財布が」というやり取りはこのパターンに該当します。器具や薬で身体が痩せたと思わせて、財布が痩せたという違う方向へずらしたのです。
■勘違いの笑い
同音異義語も笑いを生み出します。たとえば「キス」と聞いたとき、魚のキスと接吻のキス、二つのイメージが浮かぶでしょう。これを利用するのです。「海にいったとき、俺、キスをさ…」「どんな味だった?」「ちょっと淡泊だった」という具合ですすめて、最終的に「魚のキスだったんかい!」とツッコむパターンです。「講義」と「抗議」、「iPhone」と「愛の本」、「勤勉」と「近便」、「乳児」と「ニュー痔」、「自己満足」と「事故満足」などいくらでもバリエーションはあります。このとき、厳密な同音変換をする必要はありません。ときには、「スピーチ」を「すもも」と変換します。
■数字の笑い
数字は笑いをとるための恰好の材料です。空欄に当てはまるボケを考えてみてください。
ツコ「この金庫のロック番号を教えてください」
ボケ「????????」
さまざまな正解パターンがあります。
正解例:
ボケ「449-219-889-911-54……」/ツコ「覚えれるか!」
ボケ「3。」/ツコ「短すぎるやろ」
ボケ「0120-444-33……」/ツコ「通販番組やないか!」
ボケ「54。ロック54。」/ツコ「ごろ合わせかい!」
数字で笑いを作る場合、極端に長くしたり短くしたりする方法が王道です。そのほかに上記の例のように0120-のような通販の電話番号を入れたり、ごろ合わせで成立する笑いもあります。
■繰り返しの笑い
3というリズムは笑いを生み出すときに役立ちます。人はホップ・ステップ・ジャンプ、起立・礼・着席などといった3つのリズムを好みます。授業中、生徒が「先生!トイレ」「いっておいで」戻ってきた生徒がまた「先生すいません、トイレ」「いいよ」戻ってきた生徒がみたび「先生、トイレ!」ここで「どんだけいくねん!」とツッコむタイミングが生まれます。2回目までは偶然でありえる範囲ですが、3回目はもはやわざとか?という思いが出るのです。名刺交換をした人とその後、エレベーターで会い「今日はありがとうございました」、コンビニで会い「よく会いますね」、銀行で会ったとき「ちょっと、後をつけてきてるんちゃいます(笑)?」とツッコむケースもそうです。ちなみに、この後に会った場合は「おるって思ってたもん」、逆に会えなくなったら「死んだんかなぁ」とちょっとさびしくなったりする、という風にエスカレートさせるのが王道です。
■あるあるの笑い
大阪のおばちゃんのあるあるといえば、ヒョウ柄の服であったり、アメちゃんを持っていることだったりします。こうしたものに引っかけると笑いを生み出しやすくなります。
■言葉遊びの笑い
ダジャレが笑いに結びつくのは周知の通りでしょう。「柿の絵を書きなさい」、「鍋の作り方を学べ」、「栗を見てびっくり」、「パンダの朝食はパンだ」、「学ランに目がくらんだ」、「火があってホッとする」など例に事欠きません。
■大喜利的笑い
大喜利的に発想するのも笑いを生み出す方法の一つです。
例1
Q.「こんな病院の先生はいやだ、どんな先生?」
A.「冷えピタを貼っている先生」
例2
Q.「うちの孫、天才かも?なぜ思った」
A.「おはよう!と言って生まれてきた」
漫才を作ってみよう
さて、以上に紹介した知識を使って次の台本の空欄を埋めて漫才を作ってみましょう。
タイトル「堺オリンピック」
二人 はいどうも〜
ボケ わたし、いつ開催されてもいいように、
堺オリンピックのこと考えてるねん。
ツコ ほー。ほな東京オリンピックのロゴは市松模様やけど
堺やったらどんなロゴにするの?
ボケ 「 」
ツコ 「 」
ボケ 国歌斉唱はNMB48や。
ツコ ちょっと待って、それ大阪のアイドルやん。
ボケ 違うよ。オレがいうてるのは
「N( )M( )B( )48」や
ツコ 「 」
ボケ 堺らしい競技も考えてる。
ツコ どんな?
ボケ 「 」
ツコ 「 」
そんなんで、絶対盛り上がれへんわ!
ボケ ちゃんと、盛り上がる目玉を用意してるがな。
ツコ どんな?
ボケ 僕らのマンザイ。
ツコ 一番盛り下がるわ。
もうやめさせてもらうわ! (終わり)
講座の参加者の解答例は次の通りです。
■解答例1
タイトル「堺オリンピック」
二人 はいどうも〜
ボケ わたし、いつ開催されてもいいように、
堺オリンピックのこと考えてるねん。
ツコ ほー。ほな東京オリンピックのロゴは市松模様やけど
堺やったらどんなロゴにするの?
ボケ 「 千利休の帽子。 」
ツコ 「 いいアイデアですね。ハッとしました。 」
ボケ 国歌斉唱はNMB48や。
ツコ ちょっと待って、それ大阪のアイドルやん。
ボケ 違うよ。オレがいうてるのは
「N( なんとか )M( 前向きに )B( バイシクル )48」や
ツコ 「 自転車で48人が来るんですね。 」
ボケ 堺らしい競技も考えてる。
ツコ どんな?
ボケ 「 阪堺電車かつぎ。お御輿みたいに。 」
ツコ 「 持てないんじゃないですか? 」
ボケ 「 お前をかついだんや。 」
ツコ 「 なるほど、と思ったけど、 」
そんなんで、絶対盛り上がれへんわ!
ボケ ちゃんと、盛り上がる目玉を用意してるがな。
ツコ どんな?
ボケ 僕らのマンザイ。
ツコ 一番盛り下がるわ。
もうやめさせてもらうわ! (終わり)
■解答例2
タイトル「堺オリンピック」
二人 はいどうも〜
ボケ わたし、いつ開催されてもいいように、
堺オリンピックのこと考えてるねん。
ツコ ほー。ほな東京オリンピックのロゴは市松模様やけど
堺やったらどんなロゴにするの?
ボケ 「 古墳。 」
ツコ 「 バチが当たりそうですね。 」
ボケ 国歌斉唱はNMB48や。
ツコ ちょっと待って、それ大阪のアイドルやん。
ボケ 違うよ。オレがいうてるのは
「N( なか )M( もず )B( ボーイズ )48」や
ツコ 「 かっこいい名前やけども。 」
ボケ 堺らしい競技も考えてる。
ツコ どんな?
ボケ 「 包丁をバトンにしてリレー。 」
ツコ 「 手、切れるわ! 」
そんなんで、絶対盛り上がれへんわ!
ボケ ちゃんと、盛り上がる目玉を用意してるがな。
ツコ どんな?
ボケ 僕らのマンザイ。
ツコ 一番盛り下がるわ。
もうやめさせてもらうわ! (終わり)
笑い学入門講座のご案内
講座が扱う「笑い学」はその名の通り、笑いをテーマとして扱う学問です。
テーマが身近なぶん、難解すぎないので初めて研究、学問に触れる方でも安心して学べます。
講座では笑いに関する様々な専門家が登壇します。
毎回新しいトピックで面白いと思います。
次回の講座は11月11日、医師の昇幹夫先生による『笑いは最高のガン予防薬!』です。笑いの健康への効果をユーモアたっぷりの講義で学ぶことができると思います。
講座は事前申し込み制ですが、当日参加も可能です。
参加費:無料
テキスト:『笑いを科学する』(新曜社)会場販売あり
場所:関西大学堺キャンパス SB302教室
〒590-8515 堺市堺区香ヶ丘町1-11-1 南海高野線「浅香山駅」徒歩1分
スケジュール等詳しくは下記ページをご参照ください(外部リンク)。
笑い学入門講座