笑い学入門3「能・狂言と日本の笑い」

笑い学入門シリーズ 第三回のテーマは能と狂言!

現在関西大学人間健康学部で開催されている「笑い学入門講座」の内容を要約してご紹介します。 この講座は関西大学と堺市との連携事業であり、一般の方向けに無料で開講している講座です。 「笑い学入門講座」の第三回目の講師は関西大学名誉教授の関屋俊彦先生。 関屋先生のご専門は能・狂言で講演のテーマは「能・狂言と日本の笑い」です。 なお、当記事の内容は、講座の内容を筆者の視点から解釈し短くしたものであり、 講師の方の見解と必ずしも同一のものにはなっていないことがあります。 ご了承ください。


「福の神」の面/「若女」の面。いずれも関屋俊彦先生所蔵のもの。

能と狂言の違いはなんだろう

関屋先生によると、能や狂言は日本最古の「演劇」です。 能や狂言は難しくてとっつきにくいイメージがありますが、演劇と捉えると親しみがわきますね。 能や狂言のルーツは奈良時代に大陸から伝わったとされる「散楽」です。 これは今でいう大道芸のことを指していました。 散楽はやがて、ものまね芸という特徴と「サン」から「サル」への音韻変化をともなって「猿楽」と呼ばれるようになりました。 能や狂言はこの猿楽をもととした演劇で、能は鎌倉時代に、狂言は室町時代初期に成立しました。 室町時代、能は神社仏閣や権力者の庇護のもと観阿弥・世阿弥の父子によって隆盛を誇りました。 一方で狂言は、同じ演劇でも笑いを主とした、複数以上の絡み合いを特徴を持つものとして誕生しました。


能・狂言のルーツ

能と狂言のよくある分類方法は、能は悲劇、狂言は喜劇というものです。 能でも笑いの要素が入っていたり、狂言にも笑いの要素が薄かったりする作品もありますが、 おおよその見方としては当たっているようです。 それぞれの「笑い」についてみていきましょう。

能の中の「笑い」

能に笑いの要素は少ないです。なぜ笑いが少ないかというと、世阿弥が神にささげるものとして、能に品性を追究したからです。 能の中に見られる数少ない笑いの要素をいくつか紹介します。 まず、演者が笑う演目は、当コラムでもたびたび触れた中国の虎谷三笑の故事に基づく「三笑」が知られています。 また、能のセリフ(謡)には主に「美人の微笑み」として笑いが登場します。 さらに、三番叟で用いられる翁面は笑顔をたたえる面として知られています。


翁面(加工なし) 撮影:JoshBerglund19
URL:https://www.flickr.com/photos/tyrian123/2840044006/

当時、老体はより神に近いものとして考えられていました。 こうした「笑い」は見物人をゲラゲラ笑わせる「低俗」なものとは異なるものと考えられていたようです。

狂言の中の「笑い」

狂言の作品はどれも笑いにつながっていきます。一例として「附子」(ぶす)を紹介します。
主人が奥の間に附子(猛毒トリカブト)があるから食べるなと言って出かけます。 この附子、実は主人が大事にしていた砂糖であり、太郎冠者と次郎冠者はそれを見破って主人の留守中に食べてしまいます。 その後、二人は主人の大事にしていた掛け軸と天目茶碗を壊します。 主人が帰ると、二人が「大事な掛け軸と茶碗を壊してしまった。死のうと思って附子を舐めたけど死なない」と言って泣きます。
この作品は、古典の教科書でおなじみの「稚児の飴食いたること」(沙石集)がもとになっていると言われています。 機知がきらりと光る笑いと言ったところでしょうか。


附子(ぶす) 出典:2016 お豆腐狂言 茂山千五郎家

ところで、こうした狂言を演じたプロの狂言師は僧侶でした。 求道者のイメージが強い僧侶ですが、当時は芸人の僧が存在し、本願寺などでは寺の中で狂言師を養成していたそうです。

まとめにかえて――現代でも、ものすごく笑える!

能や狂言における笑いの概要がお分かりいただけたでしょうか。 私は狂言の古い言い回しにいまいち馴染めそうにないため、狂言で笑うには相当な経験と教養が必要だと考えていました。 しかし、数年前、関屋先生の講義で狂言の映像を見てその考えは180度変わりました。 確かに、古い言い回しは意味が良く取れない場合がありますが、笑うことには大して支障がなかったのです。 事前にあらすじを知っていればもっとゲラゲラと笑えたことでしょう。 私が感動したのは、昔の人の笑いの感性が現代と同等かそれ以上だったことです。 機知に富んだ作品やシュールな笑いの作品など全く古臭くない連綿と受け継がれたさまざまな笑いがそこにあります。


菌(くさびら) 出典:2016 お豆腐狂言 茂山千五郎家

新作狂言も続々発表されていますし、狂言大蔵流の茂山千五郎家では 動画撮影OKの狂言会(演者も自撮り!)を開催するなど親しみやすいイベントも増えています。 みなさんもぜひご覧になられてはいかがでしょうか。

笑い学入門講座のご案内

講座が扱う「笑い学」はその名の通り、笑いをテーマとして扱う学問です。
テーマが身近なぶん、難解すぎないので初めて研究、学問に触れる方でも安心して学べます。
講座では笑いに関する様々な専門家が登壇します。
毎回新しいトピックで面白いと思います。

講座は事前申し込み制ですが、当日参加も可能です。
参加費:無料
テキスト:『笑いを科学する』(新曜社)会場販売あり
場所:関西大学堺キャンパス SB302教室
〒590-8515 堺市堺区香ヶ丘町1-11-1 南海高野線「浅香山駅」徒歩1分
スケジュール等詳しくは下記ページをご参照ください(外部リンク)。
笑い学入門講座

その他のコラム

コラムをもっと見る