笑い学入門8「笑いは最高のガン予防薬!」

笑い学入門第八回目 笑いと健康について考える!

現在関西大学人間健康学部で開催されている「笑い学入門講座」の内容を要約してご紹介します。この講座は関西大学と堺市との連携事業であり、一般の方向けに無料で開講されています。
本講座は『笑いを科学する』(新曜社)をテキストとして笑い学を学ぶ講座となっており、基本的に執筆者の先生が登壇されます。今回の講演タイトルは「笑いは最高のガン予防薬!」で講師は医師の昇幹夫先生です。 昇先生は現役の医師(麻酔科、産婦人科)でありながら、自称「健康法師」として笑いと健康に関する講演に数多く登壇されています。ユーモアたっぷりの語り口にファンも多いです。今回は、昇先生が行った笑いとガンに関する実験をはじめとして、さまざまな笑いと健康に関する実験を紹介しながら、笑いと健康との関係について考えます。
なお、当記事の内容は、講座の内容を筆者の視点から解釈し短くしたものであり、講師の方の見解と必ずしも同一のものにはなっていないことがあります。ご了承ください。

笑いと健康(1)「がん」

まず、昇先生が行った笑いとがんに関する実験を紹介しましょう。昇先生は、倉敷市のすばるクリニック院長の伊丹仁朗先生と1992年大阪のなんばグランド花月においてがん患者を対象に笑いの実験を行いました。 吉本新喜劇を観る前と観た後に被験者の血液を採り、血中のNK細胞(ナチュラル・キラー細胞)の活性度合を調べました。NK細胞とは、がんを攻撃する免疫細胞です。 この活性度合が低いとがんにかかりやすくなります。吉本新喜劇を観た後では、NK細胞の活性度合が低かった人は活性度が適正値まで上昇しました(下図)。 笑うと免疫力がアップすることが示されたのです。この実験を皮切りとして、日本において笑いと健康との関連を調査するというトレンドができました。
(伊丹仁朗・昇幹夫・手嶋秀毅,1994,「笑いと免疫能」『心身医学』34(7): 565-571.)


笑いと健康(2)「リウマチ」

1996年にアメリカのリウマチ学会雑誌に掲載された実験を紹介します。日本医科大学名誉教授の吉野慎一先生は、関節リウマチ患者を対象に、林家木久蔵(現 林家木久扇)氏による生の落語を聞かせる実験を行いました。落語の鑑賞後、患者の血中のインターロイキン6(IL-6)の濃度が低下していました。インターロイキン6は、関節リウマチを悪化させる物質です。さらに、落語鑑賞後には複数の鎮痛物質が増加していることもわかりました。リウマチは過剰な免疫が原因で起こる症状です。笑いと免疫系との関係が示唆されたのです。
(吉野槇一・中村洋・判冶直人・黄田道信, 1996, 「関節リウマチ患者に対する楽しい笑いの影響」『心身医学』36:559-564.)

笑いと健康(3)「妊婦と胎児への影響」

妊婦が笑うことで自身や胎児にどのような変化が起きるのか、という調査もあります。松本治郎氏は妊婦に落語を聞かせ、胎児の心拍と胎動がどのように変化をするのかを観察しました。 妊婦を3つのグループに分け、それぞれ桂米朝氏の「地獄八景」、桂文珍氏の「老婆の休日」、新人落語家の噺を聞いてもらったところ、被験者の笑いの程度はそれぞれ、「ほほ笑む」、「声を上げて笑う」、「笑いなし」という結果となりました。 妊婦がほほ笑んだり声を上げて笑った場合では、胎児の心拍や胎動が活発になりました。対して、落語を聞いても笑えない場合では、胎児の心拍や胎動が不活発になるという現象がみられました。 この結果を受け、松本氏は笑うことは胎児に良い影響を与えるとしています。ただし、大笑いしすぎると子宮の収縮が生じるため早産傾向のある妊婦は注意すべきだそうです。
(松本治郎, 1996 「お母さんが落語を聴くと、おなか中の赤ちゃんは?!――笑いと胎教に関する一考察」『笑い学研究』 3:14-19.)

笑いと健康(4)「血糖値」

遺伝子工学の第一人者、筑波大学名誉教授村上和雄先生は2003年に笑いと血糖値の上昇という観点で実験を行いました。 それは、糖尿病の患者の食事後に、漫才を観た場合と専門的な講義を受けた場合とで血糖値の上昇具合を比較するというものです。 漫才を観て笑ったときは、血糖値の上昇が大幅に抑えられたということがわかりました。 村上先生はさらに、笑いと遺伝子との関係についても調査し、笑うことで特定の遺伝子のスイッチがオンになるということも報告しています。 笑うことで遺伝子レベルでの変化が私たちの身体に起きているのです。
(村上和雄, 2004, 『笑う!遺伝子―笑って、健康遺伝子スイッチON』一二三書房.)

笑いと健康(5)「がんの原因と結果」

昇先生は、がんの原因と結果について次のように考えています。 がんという結果は、ストレスや生きがいの喪失による「心」が大きな原因となっており、次に肉食や欧米型の食事による「食事」や、最後に不規則な生活と過労といった「ライフスタイル」も原因となっている、と。 理論的な根拠は、新潟大学免疫学教授の安保徹先生にあるそうです。 がんは免疫抑制の極限、つまり交感神経過剰緊張状態の持続で起こる病気であり、笑いによってそうした状況を緩和することができると『免疫革命』(講談社インターナショナル)の中で言及されているそうです。


昇先生は、たびたびがん闘病者の集いへ参加しています。一例は、1997年のモンブラン登山、2000年の富士登山です。富士登山には日米の200名の闘病者が参加しました。2003年にはがん患者と克服者の集いである千百人集会にも参加されました。そうした経験等をふまえ、昇先生はNK細胞を元気にするために、次の9つのことを推奨されています。

  • 笑うこと
  • 泣くこと
  • 人に話を聞いてもらうこと
  • お化粧をすること
  • 楽しく歌うこと
  • 良い睡眠を十分とること
  • 冷たいものをとらないこと、冷やさないこと
  • 祈り
  • あいうべ体操
つまり、心地いいと思うことがNK活性を上げるために大事だということです。

笑い学入門講座のご案内

講座が扱う「笑い学」はその名の通り、笑いをテーマとして扱う学問です。
テーマが身近なぶん、難解すぎないので初めて研究、学問に触れる方でも安心して学べます。
講座では笑いに関する様々な専門家が登壇します。
毎回新しいトピックで面白いと思います。

次回の講座は11月25日(土)、関西大学教授の雨宮俊彦先生による『笑いとユーモアの心理学』です。

講座は事前申し込み制ですが、当日参加も可能です。
参加費:無料
テキスト:『笑いを科学する』(新曜社)会場販売あり
場所:関西大学堺キャンパス SB302教室
〒590-8515 堺市堺区香ヶ丘町1-11-1 南海高野線「浅香山駅」徒歩1分
スケジュール等詳しくは下記ページをご参照ください(外部リンク)。
笑い学入門講座

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