笑いの名言集 哲学者編

「笑い」はどう使われているのか?

私たちは普段、あまり意識をしませんが、数多く笑っています。 ある調査では、成人で一日に約30秒ほど笑い声をあげるということがわかりました。 少なく感じるかもしれませんが、笑いの長さの平均1秒前後であり、これを加味すると、一日に30回前後笑っている計算になります。

ありふれた行動である「笑い」に関して人々がどのように捉えているのか、さまざまな名言から探ってみることにします。 第一回は、哲学者の笑いに関する名言を紹介します。 なお、名言は以下の名言集の「笑」をキーワードでサーチした結果を用いました。

名言、格言、ことわざ

名言と同じような意味で用いられる言葉として格言とことわざがありますが、このコラムではこれらも名言と同じものとして扱います。 デジタル大辞泉で調べると、名言は「事柄の本質をうまくとらえた言葉。」、格言は「人生の真実や機微を述べ、万人への戒め・教訓となるような簡潔にした言葉。金言。」、 ことわざは「古くから言い伝えられてきた、教訓または風刺の意味を含んだ短い言葉。生活体験からきた社会常識を示すものが多い。」とあります。

文言の長さとしては、名言が最も長く、格言、ことわざという順で短くなる傾向があります。 また、名言は「誰が言ったのか」が問題になりますが、格言、ことわざとなるにつれて「誰が言った」という部分は薄れ、内容重視となります。 名言が人口に膾炙されるにつれ、短く洗練され、発言者の名前が忘れられことわざ化することも多々あるでしょう。 名言は他を包摂する概念と考えられるのです。

名言に取り上げられる言葉にはある種の偏りが出ることもあるでしょう。 しかし、名言はいわば古今東西の人々に賛同を得た言葉であり、言葉の用法の代表例として用いることは大きく的を外れているとも言えないのでははないでしょうか。

哲学者の名言

前掲データベースに登録されている名言の中から「哲学者」の肩書を持つ人々の名言を集めました。 年代順に紹介します。なお、笑いの哲学史としては発言内容のバランスがあまり良くないのですが、それは今回のテーマではないのでまたの機会にまとめて取り上げたいと思います。

プラトン(古代ギリシア 前427-前347)

  • 笑いの実は青いうちに摘んではならない。


プラトン

プルタルコス(古代ローマ 前46~127?-)

  • 妻は自分ひとりの情熱を持ってはいけない。真面目と冗談、憂鬱と笑いを夫と分かちあわなくてはならない。


プルタルコス
引用:greatthoughtstreasury.com

キケロ(古代ローマ 前106-前43)

  • 同じ石に二度もつまずくことは、世間の笑いものになる恥辱である。


キケロ
写真:Glauco92

トマス・ホッブズ(イギリス 1588-1679)

  • 他人の欠点を笑ってばかりいるのは、臆病の証拠である。


トマス・ホッブズ

スピノザ(オランダ 1632-1677)

  • 嘲笑せず、嘆かず、呪わず、ただ理解する。


スピノザ

カント(ドイツ 1724-1804)

  • 笑いは消化を助ける。胃散よりはるかに効く。
  • 笑いとは張り詰められていた予期が突如として無に変わることから起こる情緒である。


カント

ショーペンハウアー(ドイツ 1788-1860)

  • 多く笑う者は、幸福である。多く泣く者は、不幸である。
  • 何ごとも成功までには三段階ある。第一段階、人から笑い者にされる。第二段階、激しい抵抗と反対に遭う。第三段階、それまで笑い者にしたり反対したりした人たちが、いつの間にか「そんなことはわかっている」と同調する。


ショーペンハウアー

マルクス(ドイツ 1818-1883)

  • 歴史は繰り返す。最初は悲劇として、 二度目は笑劇(しょうげき)として、過去の亡霊を呼び出し、その由緒ある衣装に身を包み、借りものの言葉を演じる。


マルクス

フレデリック・アミエル(スイス 1821-1881)

  • 才ある人間は才のみしか認めず、才しか許さない。 すべての権威を嘲笑し、すべての迷信を面白がり、すべての掟に反抗したい気持ちを起こす。


フレデリック・アミエル

ニーチェ(ドイツ 1844-1900)

  • 勇気は笑いたいのだ……。
  • 笑いながら、厳粛な事を語れ!
  • 人は何を笑いの対象にするかで、その人の人格がわかる。
  • 笑いとは、地球上で一番苦しんでいる動物が発明したものである。
  • 人間だけがこの世で苦しむため、笑いを発明するほかなかったのだ。
  • 恐らくは、今日のもので未来を持つものは他に何もないとしても、やはり我々の笑いこそはなお未来を持つのだ!
  • 孤独な人間がよく笑う理由を、たぶん私はもっともよく知っている。孤独な人はあまりに深く苦しんだために笑いを発明しなくてはならなかったのだ。
  • 道徳家が誰かをつかまえて、「君はかくかくであるべきだ」と言ったとしても、それは物笑いの種になるだけだ。個人は前から見ても、後ろから見ても、一個の運命であり、ひとつの必然である。その必然は万物と結びついており、個人に対して「変われ」と言うことは、万物に対して変われと要求すること、過去にさかのぼってすら変われと要求することに等しい。
  • 私はひとりでいることにすっかり慣れ親しんでいるので、決して自分を他人と比較するようなことはせず、静かな楽しい気分で自分との対話に打ち興じ、笑いさえ交えて孤独の生活を紡ぎ続ける。


ニーチェ

ジョージ・サンタヤーナ(アメリカ 1863-1952)

  • 涙したことのない若者は無粋であり、笑うことのない老人は愚か者だ。


ジョージ・サンタヤーナ

アラン(フランス 1868-1951)

  • お辞儀をしたり微笑んだりする仕草は、まったく反対の動き、つまり激怒、不信、憂鬱を不可能にしてしまうという利点がある。
  • 幸せだから笑っているのではない。むしろ僕は、笑うから幸せなのだ。
  • 喜びを目覚めさせるためには、何かを開始することが必要である。もしある専制君主が僕を投獄したならば、僕は毎日一人で笑うことを健康法とするだろう。
  • 微笑むことや肩をすくめることは、思いわずらっていることを遠ざける常套手段である。
  • 気分に逆らうのは、判断力の問題ではない。判断はこの場合なんの役にも立たない。そうではなく、態度を変えて適当な運動をやってみる必要があるのだ。というのは、我々自身のうちで、筋肉というモーターが我々の支配しうる唯一の部分だからである。微笑や、首をすくめることは、心労に対する天下周知の操作である。


アラン

アルベルト・シュバイツァー(ドイツ 1875-1965)

  • 認められるまでは嘲笑される。これは真理の常である。


アルベルト・シュバイツァー
出典

集計

それぞれの「笑い」の意味合いは、次のように集計できます。 最も多かったのは、笑いという行動そのものの性質に関した名言で約4割ありました。哲学者だから当たり前ともいえますが。 次に多いのが笑いを肯定的な「楽しい気持ちと連動するもの」という意味で用いているもので約4割弱、 笑いを他人をあざ笑う「嘲笑」という否定的な意味で用いているものが約2割ありました。

ピックアップ名言

最後に筆者の心に残った名言を3つピックアップします。

カント「笑いとは張り詰められていた予期が突如として無に変わることから起こる情緒である。
当コラムでも何度か紹介しましたが、不一致理論、解放理論を含めた笑い発生の仕組みについて言及しています。笑いのメカニズム、ユーモア理論を考える上での基本ではないでしょうか。

ニーチェ「笑いとは、地球上で一番苦しんでいる動物が発明したものである。
ニーチェは笑いを苦しさを乗り越えるものだということを異口同音に唱え、それが名言として残されています。笑いが精神的・肉体的な苦しさを緩和することは、近年医学的見地からも明らかになってきました。当コラムでも紹介しておりますのでご参照ください。

アラン「幸せだから笑っているのではない。むしろ僕は、笑うから幸せなのだ。
笑いは感情ではなく行動であり、行動が感情をも変えることについて言及しています。 たとえば、笑顔をつくるだけで感情に変化が生じることが実験でも証明されています。 笑いヨガのような作り笑いによる健康法も最近メディアで目にするようになりました。

みなさんの心に残る名言は見つかりましたか?

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